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福岡高等裁判所 昭和32年(ネ)474号 判決 1958年12月19日

八幡市新町二丁目

控訴人

伊藤博亮

右訴訟代理人弁護土

上野開治

被控訴人

右代表者法務大臣

愛知揆一

右指定代理人

船津敏

中村良平

橋本英敬

右当事者間の昭和三二年(ネ)第四七四号詐害行為取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は控訴代理人において「伊藤商事株式会社は会社設立以来法人税および源泉所得税についてはその課税対照たる法人所得が皆無であるから抽象的納税義務がない。また法人税および源泉所得税は申告納税であるところ、伊藤商事は所得皆無の申告をしている。かりにその申告がなされていないとしてもこれに対し税務署は課税決定の通知をしていないから伊藤商事には被控訴人主張の法人税および源泉所得税について具体的納税義務も発生していない。従つて被控訴人の本件取消権も発生する道理がない。」と述べ、乙第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証、第五ないし第七号証の各一二を提出し、当審証人伊藤忠一、田北九州士、大本文哉、重見密の各証言と当審における控訴本人尋問の結果を援用し、甲第八、九号証の成立を認め、同第四ないし第七号証の各一、二、第十号証の一ないし十七の成立はいずれも不知と答え、被控訴人において控訴人の前記主張事実を否認し、甲第四ないし第七号証の各一、二、第八、九号証、第十号証の一ないし十七を提出し、乙第一、二号証、第三号証の一、二、第七号証の一、二の成立を認め、同第四号証、第五、六号証の各一、二の成立はいずれも不知と答えたほかは、すべて原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。(原判決添付の債権目録中1、の納期「昭和二六、一、二八」は「昭和二六、二、二八」の誤記と認めて訂正する)

理由

当裁判所は被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきものと判断するが、その理由は左記判断を付加し、原判決四枚目裏八行の「甲第一号証」の次に「後記甲第十号証の一ないし十二、同号証の十五、十六」を五枚目表十二行の「被告本人尋問の結果」の次ぎに「(ただし伊藤・田北両証人の証言ならびに被告本人尋問の結果中、後記措信しない部分を除く。)」をそれぞれ挿人するほかは、原判決記載の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

当審証人伊藤忠一、田北九州士、大本文哉、重見密の各証言と当審における控訴本人尋問の結果中、右認定に反する部分は右認定に供せられた諸証拠と対比してとうてい措信することができないし、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

控訴人は伊藤商事には被控訴人主張の法人税および源泉所得税についてなんらの納税義務がないから被控訴人の本件取消権も発生する道理がないと主張するが、伊藤商事が右国税を滞納していることは前示認定のとおりであり、従つて被控訴人の伊藤商事に対する右国税債権は再調査、審査または訴訟等による適法な不服の申立がなされることなくして既に確定したものと認められる(このことはその方式および趣旨によりいずれも真正な公文書と推定される甲第四ないし第七号証の各一、二、第十号証の一ないし十七、当審証人伊藤忠一の証言および本件弁論の全趣旨を総合しても容易に推認されるところである。)ので、かかる以上は伊藤商事に納税義務がないと主張するがためには右国税の課税処分が当然無効であることを要すると解すべきところ、控訴人がその事由として主張するところはいずれも課税処分を当然無効ならしめる事由と認めることはできないから、伊藤商事に納税義務がないことを前提とする控訴人の右主張はとうてい採用することができない。

控訴人は本件譲渡を受くるにあたり、伊藤商事において右国税の滞納処分による差押を免かれるために故意に譲渡するものであるとの情を知らなかつた旨主張し、原審証人田北九州士、原審ならびに当審証人伊藤忠一、当審証人大本文哉の各証言中には右主張に副う部分もあるが、これらは前示認定の諸事実と前記甲第十号証の一ないし十七ならびにいずれも成立に争いのない甲第八、九号証、乙第七号証の一、二に徴しとうてい措信することができず、他にこれを認めるに足る証拠はないから控訴人の右主張も採用することができない。

よつて被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第一項によりこれを棄却し、控訴費用の負担について同法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 秦亘 裁判官 山本茂)

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